この BE/BH型レガシィ までで、富士重工業 は 「グランドツーリング」 という、どうにも捉えどころがなく抽象的な言葉を、レガシィ という 「言葉」 で具現化できたと私は思う。
それを定義付けるとすれば 「1,000km を、速く、快適に、安全に、しかも一気に走り切る性能」だ。
500kmだと東京から大阪くらいか。ちょっと短いな。
私は、関東から福岡までの 1,200km以上 の距離を、自らドライブしてクルマを持ち帰ることを 「仕事」 にしていた時期がある。まぁなんとも 「おバカ」 な話だが、大体 100台 も持ち帰っただろうか。いたって真面目に楽しくやっていた。無論、持ち帰ったクルマの 8割 は スバル である。
日本には四季があり、梅雨もあれば凍てつく冬もある。山がちだから 1,200km の行程の間、いつも天候や路面状況に恵まれることも少ない。だがクルマで走り出したら最後、家まで帰り着かなければならない。
例えば、「冬、真夜中、雨、中国道」 というキーワードを聞くと、私は緊張する。中国道は山がちでアップダウンと 400R 以下のカーブが続き、道幅は狭く、結構深い轍が路面についている部分が多い上に、照明は少なく、暗い。それで冬で雨なら凍結している路面がある可能性も高い。
こういう時に一番頼りになるのは、クルマとしてのシャシー性能はもちろん、何よりトラクション (駆動力) だ。おドイツ製高級車だろうが、イタリア製スーパースポーツだろうが、2WD ならお断りである。冗談じゃない。
早く、無事に、家に帰り着きたいのだ。
2WD で 「グランドツーリング」 は語れない。クルマが、近所のコンビニやショッピングモールまでの 「足」、あるいは、せいぜい自分で走る距離は 100km か 200km、というヒトなら、なりはデカいが、中身は 「すっからかん」 のドンガラをいつも引っ張って走っている、まるで自分の頭の構造を晒しているかのようなミニバンや、軽自動車でもいいだろう。
だが、私はクルマに乗るすべての瞬間を楽しみたいと思う。少しばかり足場が悪くなっても気兼ねなくリラックスしていられて、時には後席に人を迎えることができて、荷物も載せられる。
「グランドツーリング」 での 「速さ」 とは、最高速でも、0 - 400m でも、筑波サーキットのラップタイムでもない。長距離を一気に走り切る時の、「心が感じる時間の長さ」 なのだ。
それを最も短く感じさせてくれる、しかもその行程を一番 「愉しませてくれる」 クルマは、私の中では、やはり レガシィ を置いて他にはない。 |